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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(あ)1665号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人船見進吉及び同徐雲回の弁護人船内正一、同井上吾郎の各被告人のための上告趣意はいずれも単なる訴訟法違反、事実誤認、量刑不当の主張を出でないものであり、(所論各被告人の供述が強制によるものであるとの点はこれを認むべき証跡は記録上存在しない。)刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人景山敦の弁護人幸節静彦の上告趣意第一点は要するに原判決が覚せい剤の譲受に必然的に伴う所持を譲受と別個に犯罪を構成するものとしたのは一個の行為を二重に処罰したもので憲法三九条に違反するというのである。しかし所論覚せい剤取締法は、覚せい剤を不法に所持するという静的行為と、これが所有権を移転する譲渡及び譲受という動的行為とを、それぞれ、取締の目的と法益とを異にする各独立別個の罪として処罰する法意である。従って覚せい剤を譲受けた場合その瞬間にはじめられた所持そのものは、取引の通念に照らし、譲受に一連する包括的行為と見られ譲受の一罪として処罰するを相当とするであろうけれど、その譲受後時間的空間的関係の推移変動により取引上、その所持が別個独立の行為として観察し得るに至れば、もはやこれを譲受行為に包括せられるものといい得ないことは多言を要しないところである。原審が「昭和二八年三月一〇日頃から同年六月末日頃までの間に譲受けた本件覚せい剤を同年七月一四日頃居宅炊事場の石油缶または土蔵内にそれぞれ隠匿所持した」との事実に立脚して、この所持はその方法態様において譲受に当然随伴するものとは認められないから、別個独立の所持罪が成立する旨判示したのは首肯するに足る。されば違憲の所論はその前提を欠く。また同第二点は違憲をいうが、その実質は単なる訴訟法違反の主張に帰し、(所論のような事項であっても必ずしも鑑定によらずその他の証拠によって認定するを妨げないのであって単なる訴訟法違反もない。)すべて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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